新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

ある若いパチプロの話

前のコラム「作品の魂をパチンコに売ってしまうような権利者は死んでしまえばいいのに」で、自らコメント欄で脱線していまい、パチンコの話になってしまった。
ワシはパチンコはしない。多分、一生することはないだろう。ワシはパチンコが嫌いだ。ワシはパチンコに偏見を持っている。ワシがどうしてそうなったのか、話してみよう。

ギャンブラーの棲み家

ワシは北九州の繁華街にあるカプセルホテルでアルバイトをしていた。カプセルホテルというと、残業で遅くなって帰れなくなったビジネスマンが、寝るだけのために泊まる簡易宿泊施設というイメージがあるだろう。しかし北九州はビジネスマンの街ではない。ギャンブラーの街だ。競輪・競馬、ボートにオートまで全部揃っている。もちろんパチンコもあり、カプセルホテルにはギャンブラー達が「住んでいた」。

パチプロの生活

パチプロの生活は意外と規則正しい。前の日、どんなに飲んだくれて帰ってきても、次の朝9時にはきちんと出かけていく。「モーニングサービス」に行くのだ。といっても朝食を食べる訳じゃない。昔のパチンコは朝一に行けば勝ちやすい設定をしていたのだ。設定の甘い台で打つこと以外、パチンコに攻略法は無い。モーニングや新装開店のサービスで打ち、3万円程度勝った時点でスパッとやめる。それがパチプロの必勝法、つまり「負けない方法」だ。
昼前には「仕事」を終え、それから開催されている他のギャンブルで遊ぶ。それが終わったら帰ってきてサウナに入り、マッサージを受け、ビールを飲んで、テレビを見て、カプセルで寝る。これがパチプロの一日だ。
このように質素な生活をしているパチプロだが、中には10万20万と勝ち、派手な生活をする者もいる。ワシら従業員にメシをおごったり、女の子にプレゼントしたり。ワシもゲームボーイテトリスをもらった。しかし誰一人として彼に感謝の気持ちなど持つ者はいなかった。表面上は「凄いねー」「さすが!」とかチヤホヤするが、実際は「バカ」「クズ」「財布」としか思ってなかった。

パチンコだよ人生は

彼はパチンコで勝った金を、同じビルの2階にあるカプセルホテルに生活費として納める。そう。パチ屋とカプセルは同じ会社が経営していた。カプセルのレストランでメシを食い、酒を飲み、サウナに入り、マッサージを受ける。パチンコの景品でパチ屋やカプセルの女の子にプレゼントをしチヤホヤされる。時には同じ会社が経営するカラオケで取り巻きを連れて豪遊する。カネで釣った女を同じ会社が経営するラブホテルに連れ込む。こんな「優雅」な生活をしていた。
しかし、彼の得意としていた機種が無くなり、だんだんと勝てなくなる。カネに困ってきたのだろう「ゲームボーイを返してくれ」と言ってきたので返してやった。しかし女の子には言い出せなかったようだ。もし言ったとしても、彼女らは返さなかっただろうが。この時点で「ツケ払い」を断るように指示が回る。ついにカネが尽きるが、会社から住所不定・無職でも利用できる金貸しを紹介される。もちろん系列会社だ。
借りたカネで勝負し、復活→負け→借金→復活を繰り返すが、最後にはどうにもならなくなり、店に帰ってこなくなった。それからの彼の消息を知る者はいない。店では彼のことが話題になることもなく、ワシらは彼が女にプレゼントしたゲームボーイで遊んでいた。
ワシのバイトしていた会社は、福岡・北九州では有名な北朝鮮系企業。ここでの経験はワシの人生に於いて代え難い勉強になった。