新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

ある老パチプロの話

著作権争いのせいで、名作マンガ・アニメが見れないなんて不幸だよなー、って始まったこの話。松本零士大先生のおかげでなぜかパチンコの話に。さて次は何の話に脱線するのか楽しみだ。
驚いているのが、こんな話なのに意外と関心が高いこと。萌えキャラもキャプチャ画像も無いんだよ? お前ら何がそんなに面白いの? なんとアキバBlogからリファラがあったんで、「え? 子供萌えに? アキバ系、守備範囲広すぎ!」とか思ったら、パチンコ萌えキャラ投票の関連記事としてだった(笑)。これ見るとわかるけど、ホントにアニメ・ゲームのキャラばっかりだね。

読み書きに人となりが出る

読み書きってのはその人の程度が出る。どんな本を読むのか、どんな文章を書くかで、大体の人となりをつかむことが出来る。最近ではブログがわかりやすいね。どんな記事をブクマしてるとかでも、プロファイリング出来そう。ワシの文章なんかは、99%主観で書いてるから、超わかりやすいだろうな。
パチンコ雑誌と言えば、あるある並の捏造攻略記事と、サラ金・風俗・出会い系の広告。そして原色オンパレードのデザインで決まり。そんなのを本屋のレジに持っていける神経を持ってる時点で、DQN確定ってなもんだ。偏見だ、ごく一部の例だとか言うけど、バカじゃないの? そんなの関係なく、パチンコって時点で「DQN」と見下されるのが現実だろうに。まぁ、それがわかるような知性を持っていたら、パチンコなんかしないんだけど。
ワシは少なくない数のパチンコ依存症患者を見てきたけど、まぁまともな読書をしているのは皆無だった。いや、一人だけいたな。その老パチプロの話をしようか。

読書好きのゲンさん

その老パチプロは「ゲンさん」と呼ばれていた。年のころは5,60歳くらい。「世捨て人」って感じの雰囲気がある人だった。ワシがバイトを始める少し前くらいから住み始めたらしい。前のコラムでも話したとおり、その店ではパチプロは客扱い、いやむしろ人間扱いすらされていなかった。特有のDQN臭がプンプンするからだ。知性が無く話題が乏しいから、パチンコで勝った負けただのの自慢話くらいしかできない。まぁクズ扱いされて当然の人種なわけだ。でもゲンさんは違った。いつも静かにソファーで本を読んでいた。
ゲンさんと初めて話をしたのは、彼のカプセルをベッドメイクするとき、棚に置いていた10冊弱の文庫本を落として順番をバラバラにしてしまった時だ。そのことを彼に言うと「ごめん。邪魔になるね。捨てていいよ」と答えた。確かに少しは邪魔だけど、壊れ物でも無いのでそのまま置いてかまわないと言うが、「いいよいいよ」と謝る。「従業員用の休憩室に置いておきますから、読みたくなった時は言ってください」と言ったら「ありがとう。君たちも自由に読んでかまわないからね」と言った。おかげで仕事の暇なときには読書に不自由しなかった。どの本も面白く、彼のセンスの良さが伺われた。

パチプロの年収はペーペー以下

彼の「仕事」が休みの時に、ちょっとだけ突っ込んだ話をした。仕事での接待をきっかけにはじめたギャンブルにはまってしまい、借金で人生が狂ってしまったと。妻と子にも愛想をつかされ、離婚し家も仕事も失ったと。それでもパチンコがやめられないと。相槌に困って「それでもパチプロで儲かってるんだからいいじゃないですか」と言うと、パチプロといっても年収はせいぜい400万くらいだと。社会保険とか入れたらペーペーの新入社員以下だと。どんなにがんばってもパチンコで家は建たないと。そして「パチンコは絶対にするな」と。

別れ

ある日、別の若いパチプロが馬で大勝ちしたとかで、しゃぶしゃぶをおごってくれることになった。従業員だけでなく他のパチプロ仲間にもおごると言い、ゲンさんも同席した。でも支払いの時、ゲンさんは自分のとワシの分の勘定を払った。そして後でワシにこういった。あんな連中から恵んでもらうような真似をするなと。人間が腐ると。そして、できるだけ早く仕事を変えるように勧められた。
その後、しばらくしてワシはその店をやめることにした。ゲンさんに別れの挨拶をすると、「餞別だ」と言って山本有三の『路傍の石』をくれた。
数年後、店に挨拶をしに行った。ゲンさんの姿は無かったので、主任に消息を尋ねると、ワシがやめてしばらくして、いなくなったそうだ。小一時間ほど談笑し、帰るときに主任が言った。「ここはもうお前の来るところじゃない。二度とここには来るな」

路傍の石

ゲンさんからもらった『路傍の石』は、今でも段ボールのどっかにある。
それにはこうあった。

たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら 人間生まれてきた甲斐がないじゃないか

山本有三 - Wikipedia

路傍の石 (新潮文庫)

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