新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

日本が戦争に負け、屈辱的な思いをしたのは、科学で負けたからだ。だから何とかして日本を立派な国にしたいと思った。

勤労感謝の日に、NHKスペシャル『電子立国 日本の自叙伝』のトランジスタ誕生の回を見た。その中で戦後、トランジスタの製造に必要なゲルマニウムの抽出法を開発した技術者、稲垣勝さんの妻、勢津子夫人の話が心に響いたので紹介する。


今の森林公園は『ワシントンハイツ』といって、軍人さんの家族の(居住区だった)。で、富ヶ谷はいつもいつも停電してるんです。朝まで電気付かないんです。ところがあの中だけはカーっと付いてるんです。自家発電してますから。
そして素晴らしいクルマがね、あそこから綺麗なクルマが出てくるんですね。そして日本のクルマ… まだ山手通りは舗装してなかったんです。そこをね、赤茶けたトラックがね木炭を焚いて、見えてから見えなくなるまで、その長いこと! ガタガタンガタガタンガタガタンといいながら。その横をスー!っとワシントンハイツから出てくるキャデラックだとかね、綺麗な色のクルマがスーイスイと出て行く。歩道はとにかくもう、日本人の女性がぶら下がって、GIさんはスカーっとしてね。やっぱり私でもあの屈辱感は面白くなかったもの。
それですから、やっぱり、科学で負けた、経済と科学で負けたというのは、やっぱり当時の人の考え方で、それでこんな屈辱な思いをしなければならない。それですから、やっぱり、なんとかしてね、日本を立派な国にしたいと思いましたね。

このテキストを起こすために、何度も夫人の話を聞いたのだが、今でも彼女はその屈辱を忘れておらず、その悔しさがその時のように伝わり、こちらも屈辱でぶるぶる震え、涙が出た。
今の日本は、こういう人たちの「なにくそ!」という負けん気でここまでこれたと思う。彼らは何もないところから、今の日本を築き上げた。
ところが、「頑張らなくてもいいじゃん」的なゆとり風潮の蔓延で、今の日本人は性根が腐って来ているのではないかと感じる。あたかも、立派な業績を上げた老舗企業が、二代目、三代目と代替わりする度に、その栄光を食いつぶしていくように。