新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

ファイラー『FD』作者の訃報とファイラーの話

スラッシュドット ジャパン | DOS時代のファイラー“FD”作者、出射厚氏逝去の報

こんなの「MS-DOS」じゃなくて「SM-DOS」だよ!(by 山岡士郎

ちょっとだけ昔、いや、この世界では大昔になるかもしれない、マウスなんて無かった時代の話だ。PCの操作は全てキーボードから。ファイル一覧を見るには「dir」ファイルの中身を見るには「type filename.txt」ファイルのコピーは「copy filename.txt b:\」とか一々タイプしていた。(実はこの操作、「コマンドプロンプト」で今でも通用する。)まぁ、とにかく面倒くさくて、PCなんてよほどの好き者以外使おうとも思わなかった。これが悪名高き(?)「MS-DOS」である。

DOS環境を変えた『エコロジーII』

「必要は発明の母」とはよく言ったもので、この使いにくい環境をなんとかしようとするソフトが現れた。元祖ファイラーMicro Data社製「エコロジーII」である。
エコロジーII
画面下の黄色文字がコマンドで、Lでドライブ変更、Eで編集という基本操作は『FD』に受け継がれている。
市販ソフトではあったが普及率は高かったと思う。その多くはコピー品だった。今では考えられないことだが、当時の電気店はPCを売るために、ソフトのコピーをおまけで付けるようなことを普通にやっていた。MS-DOS無しではゲームもできなかったので、MS-DOSエコロジーがPCを買えば自動的にコピーが付いてくるような時代だったのだ。

元祖PDS『FD』の登場

エコロジーII
エコロジーは高機能であったが、その分メモリーを消費し、肥大化するアプリケーションを起動することができなくなってきた。またコピー品を使うというのは、やはり気分のいいものではなかった。そんな時にパソコン通信ブームとともに現れたのが『FD』である。エコロジーの操作性を引き継ぎつつも、随所に改良が加えられ、それでいて省メモリーだったFDは、圧倒的な支持を得、パソコン通信を通じて瞬く間に普及した。その最大の理由は「PDS(Public Domain Software」だったこと。今で言うフリーソフトの元祖と言っていいだろう。そしてPDSだったおかげで、同じPDSである『LHA』などとの連携がよく、そのフットワークの良さはエコロジーをはじめとする市販ソフトを凌駕していた。もし、FDとLHAがフリーでなかったら、現在のようなフリーソフトウェア文化は日本に根付かなかったかもしれない。

『EC』を一歩進めた『FD』。進まなかった『エコロジー

『FD』は「File & Directory」の略だったと記憶しているが、多分『EC(エコロジーの実行ファイル名)』を一歩進めたものという意味も含まれていると思う。(例「IBM」→「HAL」)何でもかんでもパクりと言ってしまう最近の風潮の中では、FDですらパクりと言われたかも知れない。確かにエコロジー無しではFDはあり得なかったが、オリジナルを上回る改良を加えたものは、それはオリジナルに匹敵する。ユーザーにとっては、それがオリジナルだろうがパクりだろうが、高機能・高性能であればいいのだ。その後発売された『エコロジーIII』は鈍重なダメソフトになってしまい、誰にも見向きされなかった。

FDの子供達

その後も様々な「FDクローン」が現れる。DOS用では高機能ランチャー機能を備えた『FILMNT』が人気を集めた。UNIXX68000にも同様のソフトが登場した。Windows3.1が登場した後も標準搭載のファイルマネージャーが使いにくかったため、DOS窓でFDを使い続ける人が多かった。『WinFD』が登場した頃には、シェアウェアも含めた様々なファイラーが群雄割拠する時代になっていた。

ファイラーの終焉

Windows95に搭載されたエクスプローラーは、個別ファイラーには劣るものの、必要十分な機能を有しており、わざわざファイラーをインストールすることは少なくなった。それでも「新しい時はコピーしない」等の基本的機能が無いなどの不満を持つ人たちによって、いまでも高機能ファイラーは使われ、開発も続いている。

参考資料

画面キャプチャーはT98-Next(NEC PC-9821 エミュレータ)の紹介ページから引用しました。