新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

全てを終わらせるもの

子供時代、貧乏な家庭で育った。6畳4畳半3畳の市営団地に一家4人。本当に狭かった。今考えると、どうやって暮らしていたのか不思議なくらいだ。もちろん周りの家庭も同じように貧乏だったが、みんな同じような貧乏人の子なので、貧乏なことに引け目を感じることは、そんなになかった。

幼なじみ

同じ棟に住む、歳の近いノブユキとナツキとよく遊んだ。「幼なじみ」ってやつだ。でも、親はノブユキと遊ぶのは気に入らない様子だった。「あの子とは遊ぶんじゃない」そうハッキリ言われたこともある。

片親

ノブユキには父親が居なかった。傷害事件を起こして刑務所に入っていたからだ。親のことで子供が差別されるなんて、当時は普通だった。片親ってだけでもそうなのに、犯罪者の子供なんて、そりゃ風当たりも強かったのだ。
でも俺たちには関係なかった。3人で遊ぶのは楽しかった。毎日遊んだ。ノブユキのお父さんも出所し、一家4人揃って暮らすことができるようになった。偏見の目で見る大人は少なくなかったけど、俺たちには関係なかった。

別れ

小学5年生の冬、学校に行くと、ノブユキの姿が見えなかった。先生は俺たちを図書室に集め、こういった。

ノブユキのお父さんが焼鳥屋で酒に酔って人を刺した

その後のことは、ほとんど覚えていない。知らない大人*1に何か聞かれても、何も答えないようにとか、なんか言ってたけど、全く耳に入らなかった。
授業が終わり、まっすぐ団地に帰る。先生の言ったとおり、入り口のところには知らない大人でいっぱいで、それを避けるように家に入った。ノブユキたちは居ないようだった。
夜、外が騒がしくて窓を開けると、トラックが止まって荷物を積んでいた。「夜逃げ」だった。他の住人が気づき、トラックを取り囲んでいる。ノブユキのお母さんは詰め込めない荷物を「これ、もらえる?」ってたかられていた。
俺はノブユキに別れの挨拶をしたかった。でも、ノブユキが、今、どんな気持ちでいるかを考えると、トラックのところには行けなかった。
これっきり二度とノブユキとは会うことはなかった。

すべてが終わる

ワシは頭に血が上ると、激しく攻撃的になることを自覚している。時には相手を殺してしまいたくなる衝動に駆られる。でも、これまでそれを抑えてこられたのは、多分この出来事が強烈に刻み込まれているからだろう。
人を殺したら終わりだ。自分だけではない、家族、友人、すべてを失ってしまう。それを引き換えにしてまでの価値が相手を殺すことにあるならば、殺すがいいだろう。でも、もう一度言うけど、人を殺したら終わる。すべてが。

*1:マスコミのこと