新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

火垂るの墓

実写版火垂るの墓

今夜21時、日本テレビ系列にて『火垂るの墓』が実写ドラマで放映されるらしい。
終戦六十年スペシャルドラマ「火垂るの墓 ― ほたるのはか ―」
それだけなら「人気アニメをドラマ化」というありがちな話だが、主人公が「意地悪な親戚のおばさん」で、それを松嶋菜々子が演じるらしい。私は松嶋菜々子とんねるずの「未来警察072」でしか知らないのだが、最近は大物女優として活躍しているのだそうだ。ただ、その顔立ちから「悪役」はやったことが無いのではないだろうか。最初は快く引き取ったおばさんが、自分の家族を守るため、段々と二人に辛く当たるようになり、やがて鬼の形相になっていく。それを彼女がどう演じるのか。これは見物だ。

高畑勲火垂るの墓

アニメ版火垂るの墓アメリカ人に「DVDに自殺用のピストルをバンドルすべき」(リンク先のフィリピン人の文章は秀逸です。是非読んでみて)とまで言わせた超鬱映画だ。最後まで救われない。私にも妹がいるので、クソ感情移入してしまう。芋を盗んでいたのを見つかりボコボコにされたのを、おまわりさんに助けられ、交番からトボトボと帰る途中、清太はとうとう節子の前で涙をこぼしてしまう。そのとき節子が「兄ちゃん、どっか痛いのん?いかんねえ、お医者さんに注射してもらわな。」とあどけなく言うのである。清太はたまらず節子を抱きしめ号泣。私もテレビの前で号泣。

おばさんは本当に意地悪なのか?

二人を追いつめる存在として描かれるおばさんだが、本当にそんなに意地悪な人なのだろうか。二人に辛く当たったのは事実だが、清太が家でゴロゴロしている穀潰しなのも事実だし、当てつけで自炊を始めるのも事実。食事の後かたづけもせずに放っておいたのも事実だ。食料を公平に与えなかったのも、主婦として家庭を守るという意識がそうさせたのだろう。彼女は家族にはいいものを食わせているが、昼は二人と同じ雑炊を食べている。決して自分だけがいい思いをしているようには見えない。
ところが娘は自分がえこひいきをされているのを自覚し、恥じているそぶりは見せるものの、それを是正しようとはしない。握り飯を二人に分けてやるようなこともない。二人が当てつけで自炊を始めた時も「お母さんがまたキツいこと言ったんじゃないの?」と母親を責めるが、だからといって、関係修復を計ろうとはしない。直接二人に辛く当たることはないから、本人には自覚がないが、彼女だって二人を追いつめているのだ。だからこそ「家族を守るため」自覚しているおばさんよりも質が悪いのだ。

もし自分が清太だったら

結果から言うと途中農家のおじさんに忠告されたとおり、辛抱してあの家に置いてもらうべきだったのだろう。そうしなかったのは、節子が嫌がっていたからだが、私は清太の「海軍さんの息子」というプライドがそうさせたのではないかと思う。そしてそのプライドが火事場泥棒をしてでも生きていく決意をするのを遅らせ、節子を死に至らしめたのではないか。
盗むな・奪うな・殺すな。そういった人間のプライドがズタズタにされるのが戦争という極限状態である。空襲のさなか「やれやれー!」と叫びながら火事場泥棒をし、戦利品を持ち帰ってほくそ笑む清太の表情。プライドを守るために家を出たのに、生きるためにプライドを捨てる人間。これこそが火垂るの墓が描く戦争の本質なのだ。もし自分が清太だったら、どうするか。もし自分がおばさんだったら。想像しながら見ると、また違ったおもしろさがあるだろう。