新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

木が生えていれば土砂災害防止になるというのは誤った常識

というのを書いたら、「えっ?ウソ!ホント?」という感想が来ました。広範囲で「常識」として信じられているので無理もないでしょう。私も地すべり学会の先生に教えてもらうまで、漠然と信じ込んでいました。
こちら方面は専門から外れるので、Web上にある良いソースがなかなか見つけられないのですが、独立行政法人土木研究所砂防部地すべり研究室の調査報告から抜粋します。


植生が有する機能の中には土砂災害の防止に有効なものもあり、土砂災害防止対策を講じる手段の一つとして植生を利活用することは自然環境保全の観点からも有効である。しかしながら、これまでの他機関も含めた植生に係わる多くの調査研究において、植生が土砂災害の防止に与える効果は、現在の人間の生活環境を優先して考えた場合には非常に小さいことがわかっている。よって利活用においては人工構造物との併用という方向に向かうことになろう。
ここは土砂災害防止の名の下に公共工事を行う側の立場だから、偏向があるかもしれない。と、「公共事業=悪」論者は言うかもしれない。なるほど、確かにそうでしょう。
では、もう少しわかりやすい例を挙げてみましょう。「河原がコンクリートで固められ、自然が失われてしまった」と嘆かれているのを聞いたことがあるでしょう。では洪水の時に、橋や堤防を破壊するのは何だか知っていますか? 流木です。河川敷に生えている木です。緑豊かな河川敷は、生活に潤いを与えてくれますが、洪水の時には生活を脅かす存在になるのです。環境団体と呼ばれる人々はこういった事実には目を向けようとせず、しばしば「蛍がいなくなった」等というイメージだけで語る面が見受けれられるように感じます。
自然というのは、人に優しいものです。しかし同じ分量だけ人に厳しいのです。人と自然が共生していくためには、人の知恵が必要です。自然の方が歩み寄ったり譲歩してくれる事は無いからです。「自然のあるがままに」というのは美しい理想ではありますが、現在の日本人の生活とは相容れません。自然と人の生活のバランスを保てるのは、人の知恵と技術だけなのです。