新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

路上のスタンダッパー

私はスタンダッパーに憧れていました。気の利いたジョークで、政治や経済や時代を揶揄する。もっともらしい顔して、当たり障りのないニュースキャスターよりも、不真面目な顔で、言いたいことを言うスタンダップコメディアンの方が、よりジャーナリスティックに思えたからです。皮肉を言ってやろう、揶揄してやろう、矛盾をついてやろう、歯に衣着せぬ言葉でやりこめてやろう、私にはしゃべりたいことがいーっぱいありました。
しかし今、私はこう思います。妻や子供たちと話す時間をなくしてしまってまで、みんなに話したい事って何でしょう? 団らんのひとときを切り上げてまで揶揄したい事って何ですか? 自分の幸せを壊してまで、皮肉りたい他人の幸せって何でしょう?
当たり前の中の真実は、失ってみて初めて気づくんです。
妻や子供たちとろくにしゃべれないヤツが、どうして大衆と話せましょう? 私は愚か者です。一番近い観客を満足させられずに、どうして一番遠い客を満足させられるんでしょう? 話したい、しゃべりたい、皮肉りたい!揶揄したい!歯に衣着せぬ言葉で攻撃したい!世の中の矛盾をつきたい!
私は忘れてました。世の中で一番の毒舌は「I love you」だということを。
Fuck you! Fuck you! Fuck you!
I love you!

古舘伊知郎トーキングブルース09th「スタンダップコメディアンの朝食」