新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

税金泥棒

気象庁は国の機関なので、職員は国家公務員だ。だから予報が外れたときなどは、「税金泥棒」などと言われたりする。せっかくなので実態をちょっと話してみよう。何度か話しているが、予報とは物理シミュレーションである。予報精度を上げるには、シミュレーションのモデルを開発・改善することになる。
このシミュレーションをわかりやすく例えてみよう。鉄腕DASHという番組で、お風呂で使うあひるのおもちゃを川に流して、海まで追いかけるという企画があった。岩に引っかかったり、滝にのまれたり、様々な障害を乗り越えて海までたどり着くわけだが、予報はこれをコンピュータでシミュレーションするわけだ。具体的には、12・24・36・48・72時間後のアヒルの位置を予想するのである。しかもアヒルは川しか流れないが、気象現象ではその川の流れ自体やアヒルの重量も変わってしまう。これがどれだけ困難なことか想像できるだろう。
日本全体のような広範囲のモデルを開発するのは、スーパーコンピュータが必要になるが、限られた範囲での限られたパターンだけならばPCレベルでも可能になった。想像できると思うが、開発には気の遠くなるような計算時間(Pentium4 3Ghzで半日)と、最適なパラメータを見つけるための試行錯誤が必要になる。気象庁は慢性的に貧乏で、PCすら満足に買ってもらえない。2GhzのP4が1台あるだけで、あとは1Ghz以下のマシンしかない。だからみんなデータを家に持ち帰ったり、個人のマシンを持ち込んだりしているのである。朝出てきてパラメータをしかけ、夕方結果が出る。帰る前にしかけて、夜寝る前に職場に来て結果を見る。またしかけて次の朝結果を見る。これを延々と繰り返すのである。リストラで職員数が削減されており、開発に専念できるわけではないから、他の仕事もこなさなくてはならない。
どんな職種でも多かれ少なかれこういった状況はあると思う。だから「税金泥棒」なんて言う人は滅多にいない。人を泥棒呼ばわりできるのは、自分がよほど楽な仕事をしていて、他人もそうなのだと思っているのだろうなぁ。