新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

宮崎人にとっての素晴らしき人生

ここは九州の田舎町「宮崎」。居酒屋で焼酎職人と気が合い、一緒に飲むことになった。彼が作ったと言う、その焼酎はなんともウマイ。
てらじは、「すばらしい焼酎だね。お土産に買って帰りたいから、売ってくれよ」と尋ねた。
すると職人は「そんなに多く作ってないから、もう売り切れちゃったんだ」と答えた。
てらじが「もっと作ってたら、もっとたくさん売れただろうね。おしいなあ」
と言うと、職人は、自分と自分の家族が食べて行くにはこれで十分だと言った。
「それじゃあ、余った時間でいったい何をするの?」とてらじが聞くと、職人は、「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから焼酎を仕込む。終わったら子どもと遊んで、女房と昼寝して。夜になったらこうやって一杯やって、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」。
てらじはまじめな顔で職人に向かってこう言った。
宮崎大学でMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、焼酎作りをするべきだ。それでたくさん売って、お金が貯まったら大きな工場を建てる。そうすると生産量は上がり、儲けも増える。その儲けで工場を2棟、3棟と増やしていくんだ。やがて工場団地ができるまでね。そうしたら仲介人に焼酎を売るのはやめだ。自前の販売会社を起こして、そこで焼酎を売る。Webで直販するのもいいね。その頃にはきみはこのちっぽけな宮崎を出て福岡に引っ越し、やがて東京へと進出していくだろう。きみは六本木ヒルズから企業の指揮をとるんだ」
職人は尋ねた。「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」
「二〇年、いやおそらく二五年でそこまでいくね」
「それからどうなるの」
「それから? そのときは本当にすごいことになるよ」
とてらじはにんまりと笑い、
「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」
「それで?」
「そうしたら引退して、宮崎に戻って、日が高くなるまでゆっくり寝て、日中は趣味の焼酎作りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんと昼寝して過ごして、夜になったら友達と一杯やって、歌をうたって過ごすんだ。どうだい。すばらしいだろう?」