新しいTERRAZINE

The new TERRAZINE

風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ。


 4月の兵庫・尼崎の悪夢がよみがえった。山形県羽越線で起きた特急「いなほ」の脱線転覆事故。先頭車両は今度も線路脇の建物に激突し、車体を「く」の字形に曲げていた。閉じ込められた乗客の救出に時間を要したのも、尼崎の事故と同様だ。死者4人、負傷者三十余人を数える痛ましい事故である。乗客が少なかったのがせめてもの救いで、込んでいれば、さらに大きな惨事となっただろう。尼崎の事故後、鉄道事業者は安全対策に万全を期していたはずだが、年も変わらぬうちに再発させるとは利用者への背信行為だ。取り組みの姿勢や関係者の意識を疑わずにはいられない。

 強い横風が原因、とみられている。運転士も「突風で車体がふわっと浮いた」と話しているという。雪国では冬の嵐に見舞われ、台風並みの強い風が吹き荒れることが珍しくない。その風にあおられたらしい。現場付近の風速は毎秒約20メートルで減速規制するほどでなかったというが、平時と同じ時速約100キロで最上川の橋梁(きょうりょう)を渡ったことに問題はなかったか。突風とは言いながら、風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ。暴風雪警報下、日本海沿いに走るのだから、運行には慎重であってほしかった。

 風速25メートルで速度規制、30メートルで運転中止−−というマニュアルに違反していない、との説明にも納得しがたいものがある。設置場所が限られた風速計に頼っているだけでは、危険を察知できはしない。五感を鋭敏にして安全を確認するのが、プロの鉄道マンらの仕事というものだ。しかも86年の山陰線余部鉄橋事故などを引き合いにするまでもなく、強風時の橋梁が危ないことは鉄道関係者の常識だ。ましてや「いなほ」秋田県雄物川では風速25メートル以上だからと徐行したという。現場では計測値が5メートル低いと安心していたのなら、しゃくし定規な話ではないか。

 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は直接の原因だけでなく、列車の遅れとの関係、運転士や列車指令の強風への危機意識なども徹底的に調査し、再発防止に資する具体的な提言をすべきだ。

続き:開かれた新聞:委員会から 12、1月度 JR羽越線転覆事故の社説をめぐって